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発展途上国等の経済発展を担う「人材の育成」を通し、国際貢献を目指す「技能実習制度」。今回は技能実習制度の具体的な仕組みやメリット・デメリット、問題点について解説します。

技能実習制度とは

技能実習制度とは、国内の企業などが外国人技能実習生を受け入れ、知識やノウハウを習得させる制度です。母国に戻った実習生が学んだ技能を生かすことで、発展途上国等の経済発展を間接的に支援する「国際貢献」を目的としています。

 

技能実習制度が始まったのは1993年です。その後何度かの制度改訂を経て、現在は2017年に施行された「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の施行(外国人技能実習法)」に基づき、新しい技能実習制度が実施されています。

 

制度の理念

 

技能実習制度は、以下の基本理念に基づいて行われます。

 
①技能等の適正な修得、習熟又は熟達のために整備され、かつ、技能実習生が技能実習に専念できるようにその保護を図る体制が確立された環境で行うこと
 
②労働力の需給の調整の手段として行われてはならないこと
 
 
制度の目的は経済発展を担う「人づくり」による国際貢献であって、国内の人手不足を補う安価な労働力の確保ではありません。このことは外国人技能実習法第3条第2項の中でも、
 

技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない。

 

とストレートに表現されています。
 

制度の沿革

技能実習制度は何度かの制度改訂を繰り返してきました。ここでは制度の主な沿革について、簡単な年表で説明します。

1993年4月 技能実習制度の創設 1年間の研修(座学を含む)と1年間の実習による教育制度の開始
1997年4月 技能実習制度の改訂 実習期間を1年→2年に延長
2010年7月 改正入管法の施行

・在留資格「技能実習」の新設

・雇用契約による実習が義務化され、実習生も労働基準法の対象となる

2017年11月 外国人技能実習法の施行

・新しい技能実習制度の開始

・技能実習生の保護と適正な実習の実施を目的に、外国人技能実習機構(OTIT)を設立

 

技能実習制度の仕組み

技能実習制度のおおまかな仕組みは以下の通りです。

受け入れ方式

外国人技能実習生の受け入れ方式には「企業単独型」と「団体監理型」の2タイプがあります。

①企業単独型

日本の企業などが、海外の現地法人や合併企業、取引先企業などの職員を受け入れて技能実習を行う方式。

②団体監理型

事業協同組合や商工会議所などの非営利団体が技能実習生を受け入れて、参加の企業などで技能実習を行う方式。

実際にはほとんどの受け入れが「団体監理型」で行われ、「企業単独型」による受け入れはわずか数%程度です。

 

在留資格区分

技能実習制度による在留資格は、上記の受け入れ方式と外国人技能実習生の入国年数に応じて6つに分けられています。

1

入国1年目技能等を習得するための活動

第1号企業単独型技能実習(在留資格「技能実習第1号イ」)
2 入国1年目技能等を習得するための活動 第1号団体管理型技能実習(在留資格「技能実習第1号ロ」)
3 入国2年目技能等を習塾するための活動 第2号企業単独型技能実習(在留資格「技能実習第2号イ」)
4 入国2年目技能等を習塾するための活動 第2号団体管理型技能実習(在留資格「技能実習第2号ロ」)
5 入国3年目技能等を習塾するための活動 第3号企業単独型技能実習(在留資格「技能実習第2号イ」)
6 入国3年目技能等を習塾するための活動 第3号団体管理型技能実習(在留資格「技能実習第2号ロ」)

企業単独型・団体監理型ともに、それぞれ1号→2号、2号→3号に移行する際は技能検定と技術実施評価試験に合格する必要があります。

対象職種

技能実習生を受け入れることができる職種・作業は在留資格区分によって制限されています。

 

第1号…同一作業の反復(単純作業)のみにより習得できるもの以外

第2号・第3号…85職種・156作業(令和3年3月16日現在)

 

企業が技能実習生を受け入れる場合は、まずは自社の職種や作業内容が上記に該当しているか確認が必要です。

 

受け入れ人数枠

技能実習生の受け入れ人数にも制限があります。基準となるのは実習生を受け入れる企業や監理団体の「常勤職員の数」です(技能実習生は常勤職員に含まれません)。また一定の基準を満たす企業や監理団体は「優良基準適合者」とされ、受け入れ人数枠が優遇されます。

①企業単独型の人数枠(法務大臣および厚生労働大臣に認められた企業については②の表を適用)

第1号(1年間) 第2号(2年間)

優良基準適合者

(第1号(1年間))

優良基準適合者

(第2号(2年間))

優良基準適合者

(第3号(3年間))

常勤職員総数の20分の1 常勤職員総数の10分の1 常勤職員総数の10分の1 常勤職員総数の5分の1 常勤職員総数の10分の3

②団体監理型の人数枠

 

 

  第1号(1年間)

第2号(2年間)

優良基準適合者

第1号(1年間)

優良基準適合者

第2号(2年間)

優良基準適合者

第3号(3年間)

常勤職員総数 実習生(基本人数枠) 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
301人〜 常勤職員数の20分の1 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
201〜300人 15人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
101〜200人 10人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
51〜100人 6人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
41〜50人 5人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
31〜40人 4人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍
〜30人 3人 基準人数枠の2倍 基準人数枠の2倍 基本人数枠の4倍 基本人数枠の6倍

なお①と②のどちらの場合も、受け入れ人数には上限があります。

第1号…常勤職員の総数以下

第2号…常勤職員数の総数の2倍以下

第3号…常勤職員数の総数の3倍以下

 

技能実習制度に関与する機関

ここでは技能実習制度の「関係者」について説明します。

技能実習生

在留資格「技能実習」で日本に滞在し、日本企業等で技術やノウハウを学ぶ外国人です。

実習実施者

技能実習生を受け入れ、実習を担当する日本の企業です。技能実習者は社内に「技能実習責任者」「技能実習指導員」「生活指導員」を置き、技能実習生をサポートする義務があります。

 

なお技能実習生を直接受け入れる場合は企業単独型、監理団体経由で受け入れる場合は団体監理型となりますが、どちらの場合も技能実習を開始する際は「外国人技能実習機構」への届出が必要です。

 

管理団体

海外の「送出機関」と連携して技能実習生の募集や入国手続きを行うほか、技能実習計画の作成指導や「実習実施者」への監査業務を行う非営利団体です。具体的には商工会議所や職業訓練法人、農協・漁協などが監理団体となります。

 

監理団体には(技能実習の区分のうち)第1号と第2号を監理できる「特定監理事業」と、第1号〜第3号まで監理できる「一般監理事業」の2種類があります。いずれの監理団体になる場合も、主務大臣からの許可が必要です(許可申請は「外国人技能実習機構」に行います)。

 

送出機関

技能実習生の母国で実習生の募集や事前教育などを行い、日本の「監理団体」に求職の申込みを取り次ぐ機関です。現在の技能実習制度では、送出機関になるには自国政府の認定を受ける必要があります(日本との二国間協定が締結されている場合)。

外国人技能実習機構(OTIT)

技能実習制度の適正な実施を監督する、法務省・厚労省の認可法人です。実習実施者が作成する技能実習計画の認定をはじめ、 実習実施者・監理団体からの届出や申請を受け付けたり、報告要求や実施検査などを行います。

技能実習計画について

実習実施者は技能実習生ごとに「技能実習計画」を作成(団体監理型の場合は監理団体の指導を受けて作成)し、外国人技能実習機構の認定を受ける必要があります。

 

技能実習計画の内容は、外国人技能実習法をはじめとする法令で定められています。技能実習は技能実習計画に従って行われ、違反した場合は改善命令や認定取消の対象になります。

 

技能実習生受け入れの流れ

技能実習生の受け入れまでには、さまざまなステップがあります。ここでは団体監理型のケースを例に、受け入れの流れを説明します。

 

①技能実習生受け入れの申込み

技能実習生を受け入れたい企業が、監理団体に申し込みを行います。

 

②技能実習生の募集・選考

監理団体と連携する海外の送出機関が、現地で技能実習生の募集や面接選考を行います。

 

③雇用契約

企業が技能実習生と雇用契約を結び、実習実施者となります。

 

④技能実習計画の作成

実習実施者が(監理団体の指導を受けながら)技能実習計画を作成します。

 

⑤技能実習計画の認定

外国人技能実習機構が技能実習計画を認定します。

 

⑥在留資格の申請

技能実習生の在留資格認定について、監理団体が入管に申請します。

 

⑦在留資格の認定

入管が在留資格「技能実習」を認定します。

 

⑧技能実習生の来日

技能実習生が日本に入国します。

 

⑨集団講習

来日した技能実習生に対し、監理団体が1か月間の集団講習を行います。

 

⑩技能実習開始

技能実習計画に基づき、それぞれの実習実施者のもとで技能実習が始まります。

 

技能実習制度のメリット

国際貢献の一環として行われる技能実習制度ですが、受入側の企業にとっても、技能実習生にとっても多くのメリットがあります。

受入側のメリット

①優秀な人材の確保

技能実習制度は決して人手不足を補うための制度ではありませんが、それでも少子高齢化に悩む企業にとって技能実習生は大きな戦力となります。また多くの技能実習生は、母国での選考を突破した優秀な人材です。

 

②組織の活性化

意欲の高い技能実習生を受け入れることで、他の社員も良い刺激を受けて社内が活性化します。

 

③グローバル化への足掛かり

外国人の技能実習生を受け入れることで社内に異文化に対する理解やノウハウが生まれ、その後の外国人材の受け入れや海外進出のハードルが下がります。

 

④企業イメージの向上

技能実習生が優秀な外国人材として活躍することで、外部から見た企業のイメージにもプラスの影響が発生します。

 

実習生側のメリット

①安定した仕事と収入

多くの技能実習生にとって、日本の企業(実習実施者)は安定した職場です。また一般的に、母国にいたときよりも大幅に収入が増えます。

 

②高度な技能が身に付く

技能の習得は技能実習制度本来の目的です。日本の企業で身につけた技術やノウハウは、母国の経済発展のために大いに役立ちます。

 

③憧れの文化に触れる

日本で技能実習生を目指す人は、日本の文化に興味や憧れを持っていることが少なくありません。そのような人にとっては、日本で生活できること自体が大きなメリットといえます。

 

技能実習制度の問題点

残念ながら、技能実習制度にはいくつかの問題点も指摘されています。ここでは技能実習生、実習実施者、監理団体、送出機関の4者について、それぞれの問題点を簡単に説明します。

 

①技能実習生に関する問題点

技能実習生の中には、単に高い収入を得ることが目的で技能習得への意欲や熱意があまりない人も存在します。またごく少数ですが、来日後に失踪してしまう人もいます。現在の技能実習制度では、このように本来の制度の趣旨から外れる人を受け入れてしまう可能性を完全には排除できません。

 

②実習実施者についての問題点

多くの場合、特に問題になるのが実習実施者関連です。パワハラやセクハラ、賃金の不払いといった極端な例はともかく、技能実習生を単なる「人手不足を補う労働力」と見ていたり、「安い賃金で働いてくれる」という誤解をしている経営者も決して少なくありません。

 

また認定を受けた技能実習計画に従わず、技能実習生に対し十分な教育や研修を行っていない企業もあり、しばしば問題になっています。

 

 

③監理団体についての問題点

技能実習制度では、監理団体が送出機関からキックバックを受け取る、あるいは要求することは違法です。しかし実際にはこうした違法行為を行う監理団体は少なからず存在しています。

 

ちなみに違反が発覚した監理団体は許可取消の対象となり、6月以下の懲役または30万円以下の罰金を科される可能性があります。

 

 

④送出機関についての問題点

送出機関の質もまちまちです。中には偽の求人や履歴書の書き換えといった不正をしたり、技能実習生に高額の手数料を要求するブローカーまがいの団体もあるといいます。日本の法律で規制したり、取り締まることが難しいケースも多いことから、技能実習生を受け入れる際には十分な注意が必要です。

 

まとめ

技能実習制度は、さまざまな「当事者」と「要件」が絡む複雑な制度です。技能実習生の受け入れを検討する際は制度の趣旨を見失うことなく、受入側・実習生側の双方が十分なメリットを受けられる利用を心がけるべきでしょう。

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富樫 眞一
資格

2003年 技術士(環境部門)登録
2003年 薬学博士号登録

2019年 行政書士登録

2019年 入国管理局申請取次行政書士登録

2020年 特定行政書士登録

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